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教室通信『彩色9月号より』

1015歳の男③

「でもさ、昔は江戸時代のような身分制度や戦争があったりして、自分の思い通りの人生を歩めなかったはずだし、やっぱり今が一番不幸っていうのは、納得できないんだよね」僕は、今が不幸と言うことを認めたくなかった。認めてしまったら、自分が不幸のもとに生まれ、アンラッキーのまま一生を過ごすことになるように思えてしまうからだ。

 「身分や戦争。なるほどなるほど。それより、これじゃ」そう言って老人は、テーブルの上に置いてあるメニューを取った。

「ちょっとしゃべりすぎて疲れた。甘いモノが欲しくなってな」老人は秋の特製“モンブランケーキ”を指さした。

「はいはい、モンブランですね」僕は、素直に老人の指示に従って席を立とうとした。

「フラペチーノも忘れんでな」老人が声をかけてきた。「モンブランケーキだけじゃ、のどが乾くでな」僕が振り向いて老人の顔を見ると、満面の笑みを浮かべていた。

 

「うまかった、よし話しを続けるか。うわっ、この頭がキーンとなる感じがたまらんの」ひげにクリームをつけたまま老人は、フラペチーノを飲んでいた。

「身分だったな。確かに江戸時代のように『士農工商』と呼ばれ、生まれた時から生きる道が決まっている時代もあった。というか、日本のこれまでの歴史の中では、似たような時代つまり生まれた時に生きる道筋が決まっていることがほとんどだったと言っていいのかもしれん。農民に生まれれば一生農民、武士なら武士と言ったように。でもな」老人は、残っていたフラペチーノを一気に飲み干した。

「生きる道が決まっているということは、余計なことを悩む必要が無いとも言える」

「余計なことって?」僕は思わず聞いた。

「将来就く職業などだ。武士に生まれたならば、武士としての一生をいかに生きるか、それだけを考えればいいし、農民なら農民として生き抜く術を考えればよいだけだからな。他の道を考える必要もなく、というかその必要性を感じる機会もないのだが。今は、『将来のことをきちんと考えなさいとか、あなたの夢は何?』とか言われる、具体的な道筋が見つかる人はいいけれど、そうではなくて自分に合う道は何なのか?悩んでいる間に気が付けば、とりあえず選んだ道の上を歩いている。そして一生自分の選んだ道が正しかったのか悩み続ける、そんな人が多いはずだ。悩み続けながらの一生って、不幸じゃないか?」

 「でもさ、戦争はどうなるの?あれより不幸なことってあるようには思えないけど」

 「確かに、日本もこれまで何度となく戦争というものを経験してきた。あれほど人々を苦しめそして悲しませるものは無い。だかな、ああした悲惨の極限のような状況だからこそ、多くのことに対し幸せと感じられるのも事実だ。例えば、生きていることそのもの、食べるものがある、飲む水がある、屋根の下で寝られる、幸せと感じられる瞬間が多いほど、幸せな人生と言えるんじゃないか。だが今はどうだ。ありとあらゆるものが揃っている。何かに感謝するような機会になかなか出会えん。勉強の話しとおなじだな。ありとあらゆるものが揃い、全てが当たり前になってしまっている現代。逆にあらゆるものが無い時代には、『ありがたい』と思うことが山ほどあったんだから。やっぱり、今は不幸な時代なんじゃないのか?」

「う~ん、そっか、そう言われると今は不幸なのかもしれないね。僕は不幸の時代を生きるしかないのか」僕がつぶやくと同時に

(バシーン!ガチャーン!!)

老人がテーブルの上を叩き、衝撃でグラスが倒れた。

「バカモ~ン!!」 老人の声が、喫茶店の中に轟いた。 

(つづく) 

次回で最終回になりますm(__)m                       奥松亮二  





                                  







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